正循環勤務表の検討

看護協会のガイドラインによる3交代正循環勤務表の検討をしてみます。


はじめに

正循環について、検討した過去の文献は、以下で見ることができます。

文献番号 文献
看護職員の労働時間問題に対する研究委員会報告書 連合総合生活開発研究所
3交代制勤務者の疲労度からの検討〜正循環シフト変更前後の比較 旭川医科大学

正循環の必要性は、看護協会のガイドライン以前から指摘されていましたが、実際の現場で、すぐに適用可能なものなのか? 実際どのような勤務パターンにすればよいのか?といった具体的な検討の報告が殆どありません。そこで、本稿では、夜勤スタッフ24人+看護師長1日計25人、入院基本料7:1、週40時間のモデルケースについて、自動勤務表作成ソフトスケジュールナースを使い、机上シミュレーションを行います。


正循環適用で

  1. 経営資源の観点で、人員増が必要か?
  2. 勤務表作りの立場から、勤務表作りの難易度はどの程度上がるのか? 
  3. 希望休みが叶う通る確率は変化するのか?

の観点から、検討を行います。



正循環の、パターンは一種類に限定されるものではありません。実際、文献1と文献2では、検討しているパターンが異なります。本稿では、ガイドラインを紐解き、両パターンを含むパターンについて実装を検討してみます。

なお、検討に使用した設定ファイル(プロジェクトファイル)は、サンプルフォルダに全て入っていて、ご自分で追試する事が出来ます。

<勤務表の検討によい月は?>
検討月は、休みの最も少ない2012年8月です。(休みのない月は、6月と8月ですが、8月は31日あるので、より厳しいのは8月です。なおかつこの年の8月は、土日が8回しかありません。公休数が土日数で決まる病棟では、最も作成が厳しい月になります。)

<比較対象は?>
比較対象は、日深準パターンです。このパターンは、実績があり3交代パターンの従来パターンとして代表的なものでもあります。



看護職の夜勤・交代制勤務に関するガイドライン

看護職は24 時間365 日、夜勤・交代制勤務を行って患者の健康と生命を守り働いています。一方で、夜勤・交代制勤務と生活の両立の難しさは離職の原因ともなり、過度な負担は心身への影響や医療事故のリスクを高めるという研究結果もあります。
このガイドラインで提言されている制約の勤務表は、一体どのようなものでしょうか? 制約をひとつひとつ紐解きながら、従来とどのように異なるかを見ていきましょう。


ガイトライン コラムから抜き出してみました。
勤務計画表作成ソフトへの期待

看護職の勤務計画表作成は、人事管理上の複雑で高度な判断を要する作業です。
今後、「多様な勤務形態」の導入や、さまざまな勤務帯の設定により、さらに複
雑になることが予測されます。勤務計画表を作成する看護師長へのサポートがま
すます必要となり、そのためにも部署間、病院間での勤務計画表作成のノウハウ
の共有が求められます。
 また、勤務計画表作成ソフトの改良が、今後の勤務計画表作成の効率化のカギ
となるでしょう。個々のスタッフの労働条件に関する情報や、勤務年数、スキル、
研修記録なども踏まえ、ワーク・ライフ・バランスに考慮しながら、安心・安全
な療養環境・職場環境が提供できる勤務計画表の自動作成機能、時間計算機能な
ど、現状の限界にとらわれない、理想の勤務計画表作成機能について、現場から
リクエストの声を上げてもらい
、看護部で集約し、ソフトの導入・改良時の参考
にしてください。現場で使い勝手の良い勤務計画表作成ソフトでないと作成者の
業務負担軽減になりません。

まさに、スケジュールナースの開発の背景と言っても良いくらいの素晴らしいコラムですね。


ガイドライン1勤務と勤務の間隔は11時間以上あける。

ここで問題となるのは、日勤->深夜 ,準夜->日勤 パターンです。特に、深夜->準夜を基本パターンとしている場合、深夜の前は、日勤が多い病棟が半分以上だと思いますが、その場合ガイドラインを満足することができません。ですので、このような職場で遵守しようとすれば、パターンを根本的に見直す必要があります。とりあえず、ガイドラインの言うとおりにしようとすれば、休み->深夜 にするしかないと思います。(その評価は、置いておいて、とにかく、制約の読み取りを続けます。)

勤務の拘束時間は13時間以内とする。

現状の2交代の殆どは、恐らく満足しないでしょう。 経営資源の観点から考えると、現状の殆どの2交代では人員増員が避けられないことから難しいと思われますが、ここでは、その是非は論じません。3交代のみを考えます。

夜勤回数は、3交代制勤務は月8回以内を基本

これは、従来と同じです。
スケジュールナースでの制約は、次のようになるでしょう。

コメント Dayタイプ スキル・グループ シフト 最大 最小 内訳
深夜3人 全日 S 4 3
準夜3人 全日 J 4 3

夜勤の連続回数は、2連続(2回)までとする

11時間以上あけることが前提なので、可能なパターンは、以下の2パターンです。

パターン
深深
準準

深準パターンは、後述する正循環ではない(逆順になる)のでNGです。

連続勤務日数は5日以内とする。

特に今までと変わりません。問題ありません。ただ、実際的には、5日連続日勤というのは、(一般の人からすると信じがたいのですが、)かなりきついらしいです。
これについては、別途検討しましょう。

休憩時間は、夜勤の途中で1時間以上、
日勤時は労働時間の長さと労働負荷に応じた時間数を確保する。


これは、スケジュールナースの制約としては、入っていません。(プログラムするところがありません。)

夜勤の途中で連続した仮眠時間を設定する。
これは、スケジュールナースの制約としては、入っていません。(プログラムするところがありません。)

夜勤後の休息について、2回連続夜勤後には
おおむね48時間以上を確保する。1回の夜勤後についても
おおむね24時間以上を確保することが望ましい。


2連続の場合の48時間を満足するパターン

パターン  
深深 休み
準準 休み 休み

1回の夜勤後についても24時間以上を満足するパターン

パターン  

ただし、概ねになっているので、Mustではないですが、後述する正循環を考えると上記パターンが推奨なのでしょう。

週末の連続休日
少なくとも1カ月に1回以上は
土曜・日曜ともに前後に夜勤のない休日をつくる。

これも特に問題ない制約です。

交代の方向は正循環の交代周期とする。

これは、多分新しい概念なのでそのまま抜き出します。


解説 労働科学の知見によると、3交代制(変則3交代制含む)では各人の勤
務スケジュールを、勤務開始がより遅い時刻となるようシフトを組む「正循
環」とすることが推奨されています。具体的には、[日勤]
→[深夜勤]→[準夜勤]のように開始時刻を早くする勤務編成(逆循環)よ
り、[日勤]→[準夜勤]→(非番)→[深夜勤]のように開始時刻を遅くす
る勤務編成(正循環)のほうが身体を新しいリズムに調整しやすいということ
です。人間の生体リズムはおおむね25時間周期であり、1日(24時間)ごとに
自然に1時間ずつ後ろ(時計回り)にずれていくという特性があるためです。


正循環は、どこまで続くのかといった事が示されてないのですが、コラムには、48時間以上の勤務間隔があれば、逆順でもよいように書かれています。

文献2のパターン 日準準休休深深休パターンの検討

文献2のパターンは、以下の8パターンです。このパターンの特徴は、連続夜勤が2回でセットになっていることです。

1 2 3 4 5 6 7 8

連続夜勤は、避けた方がよいのですが、単独の準休深パターンだと、どうしても連続休みが取りにくくなる傾向がある(後述)ので、夜勤を集中させて休みの消費を抑えようという発想ではないかと思います。ただそうすると、ガイドラインでは準準の後に48hの休憩が必要となります。なので休みも2連休にせざるを得ません。また、深深の後に48hの休息が必要だとするとやはり1日の休みが必要になります。

このパターンをスケジュールナースで組んでみて、勤務表が作成できるかどうかを評価しました。


結果

日深準パターンでは、全く問題なく配置可能だったものが、準準休休深深休パターンでは、配置できませんでした。(近似解です。) 原因は、公休数の不足によるものです。(公休数は、最も厳しい2012年8月の8個で行っています。)下図は、配置可能にするために、””という自動""ケジュールした年休を加えて解を求めたものです。全体で最小21個の”す”が必要になっています。21個は、厳密解ではなく近似解です。 問題は、従来パターンでは問題なく配置できたものが、スタッフあたり最大2個の年休を附加しないと配置できないということです。

結論
明らかな差異であり、リソースに相当余裕がある職場でないと適用は難しいでしょう。リソース(人的資源)に余裕がない職場では、人員の増員が必要になります。



亜流パターン 準準休深深休パターンの検討

準準休休深深休パターンでは、休みの増加が避けられないので、真ん中の休みを1個にしてみました。勿論ガイドラインから逸脱しているのであくまで参考です。
結果は、下のように配置可能でした。ガイドライン外の条件として、連続休みが2回以上という制約も追加してみましたが、配置可能でした。ただし、スケジュールナースでの求解で17秒かかっているので結構重い感じです。(従来パターンでは、5-8秒程度です。)

堅牢性の検討

希望休みを下のように入力しました。(ソフトによるランダム配置)下図は配置可能でしたが、


さらに入力を増やすと



配置できませんでした。従来パターンでは,この程度は全く問題なく配置可能ですので、やはり堅牢性に問題があるという結論です。原因としては、長パターンによる拘束が解の自由度を狭めていることが考えられます。



正循環の最も忠実な実装


上で見たように、長パターンでは、必要なリソースや堅牢性に問題があることが判明したので、本丸のパターンについて検討してみましょう。

最初に正循環の最も簡単な実装を行ってどんな感じになるか見てみましょう。


正循環でのパターン考慮事項は、次の2つであると考えます。

  1. 連夜勤を許容するかどうか?
  2. 弱い逆循環 準休日/深休準/日休深を許容するかどうか?

1番目の連夜勤は、2回までガイドラインは許容していますが、望ましいのは、連夜勤がないことである、とも解説で述べています。そこで、連夜勤の有無でどのように状況が変わるのかを調査します。

3番目は、ガイドラインの解釈ですが、このパターンを逆循環と見なし排除するかどうかです。ガイドラインコラムには、48hインターバルがあるなら正循環をリセットしてもよいように書いてあります。このパターンは48hを満たせず40hです。このパターンの許容有無での影響を調査します。

連夜勤なしの実装

ガイドラインから、2連夜勤を除きました。
また、弱い逆循環も許容しています。準公深は、意図したものなのでしょうがないのですが、それ以外に夜勤が飛び石的に集中している箇所があるのが気になります。



このパターンは以下に示す簡単な制約で出来ています。


そこで、夜勤が集中する週を回避するために、5日内に3日ある飛び石夜勤は、禁止する制約を附加しました。
以下の解を得ました。



上図により、集中する飛び石夜勤の問題が解決していることが分かります。

以下の希望休を入力して解を求めてみました。


この入力に対しても、解は得られており、従来深準パターンに近い程度の堅牢性を有していると考えられます。


しかし、解のパターンを見ると

  1. 準休深パターンが多い 
  2. 深日パターンが多い
  3. 連休の取りづらさ 


というご指摘を頂きました。
1,2は、正循環パターンの本質的なところではありますが、何か改善する手立てがあればそれに越したことはありません。

連夜勤ありの実装
そこで、連夜勤なしの条件を外します。連夜勤は、ガイドライン遵守条件を適用し、上記の問題が改善されないかを検討します。
準準の場合は、準準休休、深深の場合は、深休になるのは、ガイドラインの定めるところです。

連夜勤を適用したことにより、上の検討例よりも、毎回の準休深(J*S)が多少緩和されているのが分かります。なお、深準の回数は、5-3回と多少緩和(総計8回は変わらず)しています。
また、飛び石パターンは許可し代わりにSS*Sパターンを禁止しています。この理由は、深夜の集中を避けるためです。
この求解時間は、希望入力なしで5秒で、従来パターンと全く遜色ありません。

以下、このパターンを基本として、いくつかのパラメータを振って解の性質がどのように変わるか見てみます。




連続休み2回以上は入るか?

そこで、試しに、ガイドラインのフリー土日1回以上という制約に加えて、連続休み2回以上という制約を附加してみました。


これは、予定入力なしの状態ではありますが、同じ条件で、従来パターン日深準パターンでは、解がなかったことを考慮すると、従来パターン並みの解の自由度を持つ可能性があると言えそうです。

深日数の最小化

深日がガイドライン上は違反にはなりませんが、好まれないパターンのうちの一つなので、これに絞って最小化してみました。各スタッフ2回以下に最小化できました。



上図は、J*Sパターンが3回あるスタッフもいますが、下図は、J*Sパターンの回数をスタッフあたり2回以下に制限し解を得ています。

準休深の最小化
正循環の基本形ではありますが、これもあまり好まれないので、これに絞って最小化してみました。

確かに、スタッフあたりの準休深パターンの数は2個以下に抑えられており、効果が認められます。

パラメータに対するまとめ
3つのパラメータ(連休2回、深日の最小化、準休夜に)ついて、それぞれ最小化を実施しました。これらは、単独では、それなりに効果はありますが、トレードオフの関係になっており(あちらをたてればこちらがたたず)、全体を同時に満足することはできません。(同時に満足する条件は後述)

公休数1日追加でどれだけ違う

上の検討では、公休8日で行いましたが、すべてを同時には満足できないことが分かりました。そこで、公休を増やしていき、様子を観察してみます。

下図は、公休を9日として、準休深の最小化を行っています。1日公休を追加するだけで大分様子が違うことが分かります。


同様に深日の最小化を行ってみました。これも大分様子が変わります。


さらに公休数1日追加でどれだけ違う

さらに1日公休を追加し、10日としてみました。求解にかなり時間がかかりましたが(約1分)、深日パターン、準休深パターンを避けることができ、なおかつ連休を2回以上確保することができました。


以上見てきたように、勤務パターンの質と公休数は密接な関係にあります。その意味で、月毎に公休数が変わる病院では、作成が難しい月と簡単な月とのギャップが大きくなるので勤務表作りの観点からは不利である、と言えるでしょう。年間の休日数は、土日と祝日を合わせると120日近くあります。現在、祝休ありの4週8休みならば、月あたりの公休を10として固定化しても、さほど経営資源的には変わらないのではないでしょうか? 

まとめ考察

「経営資源の観点で、人員増が必要か?」



本稿では、弱い逆循環を含む基本パターンを作成し、実際に配置可能か?という観点で、詳しく検討しました。

従来の逆循環パターンに(下記)対し、逆循環を含む正循環パターンとの比較で、特に公休や人員を増やさなければならない理由はありません

パターン 禁止パターン 最小勤務間隔 備考
逆循環 準深、休深、深深,準準、深日、準日、日深日深 8時間 従来パターン
弱い逆循環を含む正循環 深準、準日、準深、日深、3夜勤 24時間 準準の後は休休,深深の後は休


比較は、あくまで同じ公休数8日の場合の比較です。しかし、もし求めている質が、例えば、上の公休10日レベルであれば、公休2日またはスタッフ増が必要になるということです。

<弱い逆循環を含む正循環パターンを基本とする勤務表作りの提案>

上の実験結果から、公休数と勤務パターンの質は、強い相関があることが分かります。具体的には、公休数に余裕がないときは、弱い逆循環を含む正循環パターンを使えば、少なくとも、24時間の勤務インターバルとすることが出来ます。また、公休数に余裕があるとき、深日あるいは準休深パターンの数を減らすことでさらに良いパターンとすることが可能になります。一方、逆循環のパターンの作り方では、公休の余裕があったとしても、常に強い逆循環(深準)を平均で4回程度毎月こなさなければなりません。公休数が増えれば、勤務パターンの質も上げられるチャンスが増えるのは、極々自然な事ですが、弱い逆循環を含む正循環パターンを基本とすれば、これに対応した作り方が可能になります。




<同一病棟内でも逆循環、正循環の混在が可能>
若い人は、準休深パターンを好まないかもしれません。反対に体がきつくなってくるベテランには、正循環が好ましいかもしれません。どの勤務パターンがよいかは、個々人で違うことは当然な事です。勤務表作りの難しさの制約ではなく、組織としての制約がないのであれば、混在をトライしてもよいのではないかとスケジュールナースは考えます。
本稿に対するご意見、あるいは、こんなシミュレーションをやって欲しい等、ご要望がありましたら、サポートまで

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